無意識への力「意図の忘却」

先にのべたものは過去に体験した不快なことを忘却する現象であった。しかし、忘却には、ある人に何時にあおうと思っているのに、ふとこの約束を忘れるといった場合、「意図の忘却」がある。

この場合もやはり、心のなかの力関係で説明することができる。ある人は知人を招待しなければならないことがあったが、これを望んでいなかった。「いらっしやいますね。しかし、いつだったか、日をはっきりおぼえていないんです。手紙で招待状をお送りしてお知らせしましょう。」しかし、彼は、それを忘れてしまったのである。

結婚の前日、自分の花嫁衣裳をドレス・メーカーに頼んでおきながら、とりに行くのを忘れた花嫁の例をメーダーはあげている。このような場合、彼女が結婚に気のりがしていないのではないかと想像されるが、事実、彼女は結婚はしたものの、じきに離婚してしまった。

意図の忘却をただ不快な感情という側面からのみ見るべきでないことは、その後のレヴィン学派(ビレンバウム)の実験でも明らかにされたことであるが、フロイトの主張するような事実は、日常生活でわれわれがよく経験することである。

ブリルのいうように、「われわれは小切手の入っている手紙よりも、請求書の入っている手紙をおき忘れやすい」のであろう。