適応の力学「代償と昇華」

人間は社会に適応するために願望を変化させる場合があるとフロイトは考えた。彼は後に述べる精神的エネルギーの仮説によって、これを説明するのであるが、我々は、ここではこの仮説は一応、問題とせず、ただ事実だけを考察することにする。既に「無意識の心…

適応の力学「反動形成」

子供に憎しみを抱いている継母(ままはは)が、かえって、その感情に対抗して子供をひどくかわいがり、甘やかすことがある。このように抑圧した傾向(この場合は子供に対する憎しみ)に対して反対の傾向を示すことを「反動形成」と呼ぶが、これも適応の動き…

感情理論「逃避」

適応がうまくゆかぬとき、その状況から逃れる反応を行なうことがある。失恋の結果、修道院に逃避する者もあるし、世の中が住みにくくて山中に逃避する人もあるし、家庭がいやでバーに逃避するサラリーマンもある。しかし、フロイトが「病気への逃避」と「空…

感情理論「同一視」

コドモは英雄の物語をよんで英雄になったつもりになる。われわれは感情のうえで主人公になって、ハッピーエンドのストーリーで満足する。このように、他のものと自分を同一とみなすのが同一視である。ときには母親に愛着を感じてきた男の子が結婚するとき、…

感情理論「合理化」

とろうとして、手の届かなかったブドウに対して、キツネが、あのブドウは酸っぱいといったという話がイソップにあるが、これと同じような例は、われわれの日常生活に少ないものではない。失恋した相手は、おしゃべり過ぎるとか、ケチンボ過ぎるとか判断され…

感情論理

論理的のようにみえて、じつは感情によって結論が出される現象は、リボーが感情論理とよんだものである。それは、結論のきまっていることに理窟をつけるものである。「一人の人間、ある政治的制度、一つの政府に黙狂的信念を示している者は、決してその無力…

欲求不満

適応の問題は不適応の状態を土台にして考えられる。空気の効用は空気のない状態に入るときわかるようなものである。精神病者や白痴は適応がうまくゆかないでも、平気でいられるが、一般の人は、どうにかして適応しようとする。欲求不満(無意識的に不満をも…

目的行動

人間は生物と同様、つねに環境に適応している。食物を求め、危険からのがれる。自分を守ったり種族をふやすのに都合のよいような行動をする。心理学は適応を研究する学問だという者さえあるが、適応という考えが、少なくとも今日のパーソナリティー(人格)…

不完全な抑圧

フロイトが夢に意味があること、夢が願望の実現であることを主張したことは一般に知られている。フロイトは、のちに、機械的にもと体験をくり返すだけの夢があることを認めたけれども、夢を願望の表出とみなすことが、彼の根本的な考えであった。フロイトが…

無意識への力「意図の忘却」

先にのべたものは過去に体験した不快なことを忘却する現象であった。しかし、忘却には、ある人に何時にあおうと思っているのに、ふとこの約束を忘れるといった場合、「意図の忘却」がある。この場合もやはり、心のなかの力関係で説明することができる。ある…

無意識への力「完全な抑圧」2

フロイトは、これに対して、忘却が、欲求など心の中の他の力によって行なわれること、すなわち、忘却に外在的な原因があることを主張したのである。すでに述べたフリンクの例を思い起して頂きたい。ポンドという商店の名を忘れたのは偶然でなく、意味のある…

無意識への力「完全な抑圧」1

無意識のうちにある願望その他の傾向が、日常の行為を支配することがあると述べた。なぜ、普段は、それらの傾向か、意識下に、われわれに気づかれることなく、存在しているのであろうか。ジャネはフロイトに先立って無意識を扱い、心のなかの傾向を問題にし…

無意識からの力「歪曲行為」

歪曲行為心のなかの傾向によって読みちがい、書きちがい、などの生ずることは、日常われわれが経験することであろう。戦争中、フロイトは雑誌を読んでいて、Der Friede von Goz(ゲルツの平和)という文字をみたが、本当はDer Feinde vor Gorz(ゲルツの前面…

無意識からの力「偶発行為」

精神の深層に無意識の世界が横たわっていることは、上にのべてきたが、無意識の存在は日常全く気づかれぬものであろうか。フロイトは無意識中の傾向か意識に影響をおよぼすこと、無意識中の傾向をしめすような行動が日常生活中に認められることを指摘した。…

無意識の性質(3-3)

ある若い女性の夢である。青年が暴れる褐色の小ウマに乗ろうとしたが、三度失敗し、四度目にやっと乗ってゆくことができた、というきわめて簡単な夢である。象徴法によると、乗馬は性交を意味する。後にのべるように、夢は願望の実現であるから、この女性は…

無意識の性質(2-3)

レヴィンはボタンを買おうとして街に出たところ、街に出たということでボタンを買うのを忘れた、という例をあげて「ボタンを買おう」とする緊張が「街に出たこと」で解決されたとみなし(これは主観的の解釈であって、精神分析学派以外でも「了解」が行なわ…

無意識の性質(1-3)

フロイトは「夢」を無意識を探るための王道だとみなした。夢の性質を観察すれば、無意識がどんなものかが、はっきりするというのである。夢についての考え方には、レルミットも指摘しているように、二つの流れがある。第一は、夢はバラバラなもので、意味の…

無意識の世界

精神分析が、まず第一に、無意識の世界を探る「深層心理学」を意味することは先にのべた。意識のない状態のうちには、神経の伝導とか心臓の動きとか、完全に意識を離れた身体内の現象で、その結果「痛みの伝導でなく痛みという感覚、心臓の動きでなく、ドキ…

深層心理学の方法「病理法」(2-2)

フロイト学派がきわめてまれな例、異常な例を用いて正常の心理現象を解釈していることを、非難する者がある。「病理法」に親しまぬ人たちは、前に述べたミドリの虫を食べた子供モの例のような、極めて稀なものを土台にして心理現象を明らかにしようとするこ…

深層心理学の方法「病理法」(1-2)

今日の人間の性格についての説で、クレッチマーの気質論は最も重要なものであるが、彼が人間の気質を分類するのに用いた方法は、精神病者を土台として、普通の人間の性格を分類することであった。遺伝的なものに関係があると思われる内因性精神病には、精神…

深層心理学の方法「連想法」(2-2)

ポンドから最初に連想したのは「ドクター・ポンド」で、フリンク自身もドクターだが、事件は池「ポンド」の淵で起こったし、ピッチャーは投げる役割をする。第二の連想は「インディアン池」だが、これはフリンクが石を投げて犬を死なせた池と同じ町にある。…

深層心理学の方法「連想法」(1-2)

精神分析が精神の表出から、心のなかの傾向をさぐろうとするものだとすると、どんな方法で、その原因を探ったらよいか。催眠法はその一つの方法である。フロイトは最初これを用いていたが、後に、これを捨てて「自由連想法」を用いるようになり、今日、これ…

深層心理学の方法「表出法・投射法」

「了解法」で述べたのべた二つの例では、奇妙なくせの原因、おかしな遊びの動機は心の内部の傾向または緊張であった。この内部の傾向か遊びに表出されていた。そして、外部に現われたものから、この原因を探ったわけである。心の内部を、外に現われたものか…

深層心理学の方法「了解法」(2-2)

彼は決して了解をもって心理学の方法としようとしたのではないが「黒人が怒っている」という叙述の場合にみられるように、主観的にその表情の意味を了解してよいと考えているものであろう。精神分析は了解を方法とする。それは一種の了解心理学である。アレ…

深層心理学の方法「了解法」(1-2)

上の例で、性的の習慣が原因でシカメツラが生じたというのは実験で確かめたわけでなく、多くの似た例を集めた結果、結論を出したものでもない。自分の気持から推察して、原因=結果のつながりを考え出しているのである。日常、われわれは、あの人が自動車に…

心的因果(4-4)

こう解釈すると最初、わからなかった子供の不思議な行動も了解できる。フルールノアは結論した。この夏、この子供は父・・・この父は学校の先生と同様、権威のある恐い存在だった・・・にかわって、彼が心から望んでいた母の愛情を独占したかった。現実はそ…

心的因果(3-4)

「バッタの体をしゃぶったり、食べたりすること」からすぐに思い出した事は、福音書にある砂漠でイナゴを食べていたバプティスマのヨハネのことであった。これについて、彼はこうのべている。「この奇妙な物語は、子供だった私の心に刻みつけられていました…

心的因果(2-4)

ダルビエズはこの精神分析的解釈を検討して、これを普通の科学的推理と比較した。精神分析の仮説は、この習慣が意味「心理的原因」を持つということ、それが、おそらく苦痛な経験・・・無論、なんらかの精神内部の葛藤・・・によるということである。この仮…

心的因果(1-4)

日常生活のうちで、われわれは全く偶然的としか思われぬ行動をすることがある。何の気なしに顔をなでる、口笛をふくというようなことから、ふと物忘れをするとか書き損いをするとかいったことである。こんな行動には原因はないのだろうか。従来はこんな原因…

深層心理学(2-2)

フロイトはベルネームによって、意識しないで行なわれる行為が存在することを教えられたが、ブロイェルの観察はさらにこの考えを確かめた。ヒステリー症状は忘れていた事件で起された。病気の原因となった、痛手(感情的外傷)が、これは催眠法によって再現…