深層心理学の方法「連想法」(1-2)

精神分析が精神の表出から、心のなかの傾向をさぐろうとするものだとすると、どんな方法で、その原因を探ったらよいか。催眠法はその一つの方法である。フロイトは最初これを用いていたが、後に、これを捨てて「自由連想法」を用いるようになり、今日、これが精神分析の最も重要なものになっている。

分析される人を長イスに横にして、目を閉じさせ、緊張をなくさせ、意志的態度、批判し判断するような態度をすてさせ、しかも、自分で自分を観察できなくなる状態−睡眠またぱ半睡状態に陥らぬようにしておいて、頭に浮ぶことを次々に言わせてゆくのである。

われわれは、ぼんやりしているときには山→川→海→太平洋→大西洋→ヨーロッパ→フランス→パリ→エッフェル塔→東京タワー・・・というように、目的もなく連想してゆくが、このような自由連想を行なってゆくと心のなかのシコリになっているコンプレックスに到達するというのである。つぎのフリンクの例は連想法を説明するに適当なものであろう。それは彼自身の自己分析である。

フリンクは友人に、ある品物を売る店を教えてくれと頼まれ知っていると答えたものの、何という名の店だったか、どうしても思い出せなかった。数日後にその店・・・無論よく知っていた店だがその店の前を通って、その店の名をみて「ポンド」という名だったことを見出した。なぜ、こんなことを忘れていたのか。この点を明らかにするために、彼は自分自身の分析をやろうと考えたのである。

「ポンド」という言葉に注意を集中して思い出したことは「ポンド博士」という人であって、この人は、ある野球のチームでピッチャーをしていた。それからポンドが池であるため「インディアン池」という池を思い浮べたが、これは彼が子供時代に釣りに行った所である。それからフィッシャー(Fischerだが、発音は魚をつる人fisherと同じという人のことを考えたが、この人は別のチームのピッチャーであった。

このように連想を続け頭に浮ぶものを記録してゆくと「ポンド・エキス」というものが出てきたが、これがハマメリスという植物から摂ったクスリを含んでいることに気づいた。これから、子供の頃、野球のピッチャーをした時、ハマメリスを採って、これで腕をマッサージして球を投げたことを思い出した。

つぎに同じ野球チームにいた、ある肥った少年のこと、この子がある日、どろ水のたまりのなかに頭から倒れたが、肥っているせいもあってグロテスクで、まるでブタみたいだったことを想起した。これからブーちゃん(Piggy)という名の他の人、さらにフリンク自身がブタというアダ名をもらっていたことに考えついた。

ここで連想の糸が少しの間、切れた。そこで、またポンドから出発して分析をつづけることにした。ponder(考える)が出てきて「考える」という言葉を連想し「考え」に関係のあるシェークスピアのsicklied o'er with the pale cast of the thought(不安という蒼白い壁を塗られて生気なく−中野好夫訳)さらに、ハムレットを連想し、部落(ハムレットには部落という意味がある)と思われる村を思い浮べた。その村のある農夫とその農夫の話。彼の近所の男が二匹のブタを殺して、その農夫の家の井戸に投げこんだという話を思い出した。

このとき、突然、小さいときの記憶がよみがえってきた。フリッグは、ある池の淵で兄弟で遊んでいた。彼は犬をつれて行って池で泳がせていたが、これは彼の大好きな犬で、非常にかわいがっていた。彼が石を投げると犬はそれを捕らえようとして泳いで行ったが、無論、石は沈んでしまった。しかし、これが彼には、本当におもしろいことだった。

ついに、彼は犬を驚かせてやろうと、すごく大きな石を投げ込んだ。石は悪い場所に落ちた。犬の顔にあたったのだ。犬は気を失って死んでしまったのである。この事件はひどいショックだった。彼の子供時代の最大の苦痛だった。そして何ヵ月もふさぎこんでいた。夜中に、うなされたこともあった。甚だしく悲痛な事件だったのである。フリンクはポンドという店を忘れたのも偶然でなく、この苦痛な思い出に原因があると解釈した。われわれは苦痛な事を思い出させるようなことを無意識的に忘れようとするのである。

この例で、連想は決して勝手に進行しておらず、常に一定したテーマを巡っていることに気づくであろう。