無意識からの力「歪曲行為」

歪曲行為

心のなかの傾向によって読みちがい、書きちがい、などの生ずることは、日常われわれが経験することであろう。戦争中、フロイトは雑誌を読んでいて、Der Friede von Goz(ゲルツの平和)という文字をみたが、本当はDer Feinde vor Gorz(ゲルツの前面の敵)と書いてあった。

そのとき彼ぱ戦線に二人のコドモを送っていて、心から平和を願っていた。コトバが似ていたため、この願望が言いまちがいとなって現われたとフロイトは解釈した。この場合に、原因としての平和への願いは、日常、考えていたことだったし、意識していたことであった。

しかし、同じように、読みちがい、書きちがいなどで、原因が、普段から意識されていない場合もあるということを、フロイトはしめしたのである。

アメリカに精神分析を導入したブリルによる、つぎの例は興味あるものである。ある神経症の患者がブリルに、自分の悩みを訴えたが、彼自身はこれが自分の仕事、つまり綿についての経済問題に関係があると考えていた。手紙はこうであった。

My trouble is all due to that damned frigid wave ; there isn't evev any seed.
(私の病気はこのいまいましい不景気の波のためなんです。全く商売の芽が出ません)

しかし、実際は「frigid wave」と書かずに「frigid wife」(冷感症の妻)と書いていた。彼は心のなかで、妻の性的冷感症とコドモのないことが気になっていた。彼は自分の病気は、妻が冷感症で性的交渉の機会のないためだと、ぼんやり考えていた。

この書きまちがいには意味があった。心のなかにある阻向が、手紙を書きまちがわせてしまったと解釈できる。同様の現象ぱ記憶ちがいなどにもみられる。