深層心理学(2-2)

フロイトはベルネームによって、意識しないで行なわれる行為が存在することを教えられたが、ブロイェルの観察はさらにこの考えを確かめた。ヒステリー症状は忘れていた事件で起された。病気の原因となった、痛手(感情的外傷)が、これは催眠法によって再現して来るまで意識されていなかったものだが、症状をおこす働きをしたものに相違ないと考えられた。

無意識のなかにあって、発散されずにいる感情的緊張が、あるきっかけがある時コトバや行為となって発散し、これで心の中がきれいになる「解除反応によるカタルシス」という考えなのである。

これらがすべてフロイトの独創ではない。精神現象が生理的原因なしに過去の事件で決定されるという考えおよび無意識というものの重要な点はジャネによって強調されていたことであり、情動が完全に解発されない場合のあることは、シャルコーその他の学者の研究から考えられていた。とくにジャネの研究がフロイトに影響していることは確かである。

ジュネはこう書いている。

「1890年代の初め、外国の医者でフロイトという男がサルペトリエール病院にきて、私の研究に、甚だ興味をもっていた。彼はその事実の真実を認めて、その線に沿った新観察を幾つか発表した。この発表において、彼は何よりもまず、私の用いていた言葉を変えた。私が心理的分析と呼んだものを精神分析と称し、私が心理的組織と呼んだものをコンプレックスと言った。私か意識の狭小化と呼んだものは退行現象とされ、私が心理的分解または精神的燻蒸(消毒)と説いたものを、彼はカタルシス(浄化)と命名した。しかしながら、彼は臨床観察と治療を変形して汎性哲学(全てをを「性」で解釈する哲学)の体系を築き上げてしまった」

しかしフロイトは単にジャネの用語を変える以上のことをした、というのがマクドゥーガルの見解である。

フロイトは無意識の世界を探ると同時に、精神内部のシコリを解消させるために、後に述べるような自由連想法を用いた。頭のなかに浮ぶイメージを次々に語らせる方法である。これは深層を探究すると同時に、神経症の場合には一種の精神療法である。この方法を特に「精神分析」と称することもある。

フロイト学説

フロイトは上にのべたような研究を基にして精神現象を説明する学説をつくり上げた。まず「性」の概念を拡大した理論(他の学派から「汎性説」と呼ばれる)をつくり、人間の発達、人間の性格、神経症などをすべて性の発達と関係させて説明し、犯罪、宗教心理、文学などにも自己の説を適用した。

次にフロイトは自我とか精神の構造についての説を述べ、さらに本能論を唱えたが、「死の本能」を仮定して攻撃や自殺を説明しようとしたのである。

このようなフロイト学説全休を「精神分析」と称する事もある。なおフロイトに似た系統の学説・・・ユングとかアドラーなども時に「精神分析」とよばれることも注意すべきであろう。

心理学特に深層心理学としての「精神分析」とフロイト学説としての「精神分析」は、しばしば混同されている。しかし、これは、はっきり分けて考えねばならない。