深層心理学(1-2)

精神分析とはまず第一に、この深層心理学を意味するのである。それは一般に知られているようにフロイトの天才に負うている。彼は若いときにフランスに学び、パリのシャルゴーついでナンシーのベルネーム、リエボーの研究に接触した。シャルコーのところで彼はヒステリー現象とくにヒステリーを催眠暗示でひき起すことができることを学び、ナンシーでは「後催眠現象」を観察した。後催眠現象は「行為の本当の原因は、常に意識されているとは限らぬ」という精神分析の根本的な考えをフロイトに与えるのに重要な役割を演じたのである。

これより以前(1880年-1882年)ウィーンの医者ブロイェルは若いヒステリーの女性を診療したことがあった。この患者は夢うつつの状態の中でぶつぶつ何かつぶやいていた。ブロイェルはこのつぶやきを患者が心のなかに抱いていることと関係があると考え、この文句を書きとめておいて、患者を催眠状態に導いてから、これを繰り返して聞かせた。これによって患者の心の中にあることを誘い出そうとしたのである。

患者が語り出しだのは、一人の女の子が病気の父の枕元にいる光景だった。このイメージをのべ立てた後、あたかも解放されたような状態となり、一時的ではあったが正常な心理状態に帰ったというのである。この結果に力を得て、ブロイェルは催眠法を用いる治療法を発展させたのであった。

この患者には、また水がどうしても飲めないという症状があった。コップに手をやるが、クチビルにこれをもってゆくと、これを斥(しりぞけ)けないではいられず、果物だけでのどの渇きをとめていた。

こんな状態が6週間も続いた後、催眠術中に、ある女性についての苦情をのべ、その女の部屋にいるイヌがコップで水を飲んだことを催眠中に語った。この話をしおわると彼女はそれまでこらえていた怒りを激しくぶちまけた。

それから水を飲みたいと言い水を何ばいも飲み、コップをクチビルにあてたまま催眠状態から目覚めた。水が飲めないという症状は、それからは消えてしまったのである。

このブロイェルの観察をもとにしてフロイトはヒステリーについての研究を発表したが
1893年と1895年)このなかで、神経症症状は忘れてしまっている過去の事件に関係がある事、これを思い起させることによって、これらの症状を取り除くことができることを主張した。患者は心にキズを受けていたのだ。これを再現させれば治る。ブロイェルがカタルシス(浄化法)とよんだ方法、心のなかに残っていたシコリを掃除してしまう方法こそ有効な治療法だと彼は信じたのである。