深層心理学の方法「病理法」(1-2)

今日の人間の性格についての説で、クレッチマーの気質論は最も重要なものであるが、彼が人間の気質を分類するのに用いた方法は、精神病者を土台として、普通の人間の性格を分類することであった。遺伝的なものに関係があると思われる内因性精神病には、精神分裂病躁鬱病(そううつびょう)、テンカンが区別できるが、普通の人の気質もこれらの三種の精神病に応じて分裂質、躁鬱質、テンカン(粘着)質に区別できると考えたのである。

このように病的状態を通じて、ふつうの心理を研究する方法を「病理法」と称するが、精神分析ではこの方法が大幅に用いられている。具体的心理現象を対象とするとき、「発達法」(子供のときからの精神の発達の経過を辿ることによって、成長した精神を明らかにしようとする方法)と共に「病理法」を無視することが出来ないからである。

病理法はフランスで発達したもので、哲学者のメーヌ・ド・ビランによって主唱されたことは知られているが、社会学者のオーギュスト・コントは、当時の心理学が健康な大人の心理しか扱わぬことを非難し、哲学者で文学史家だったテーヌもこの方法を問題とした。そして、これを大成したのぱリボーであった。リボーは病理法についてこういう。

「病理法は、純粋の観察であると同時に実験にも関連している。病気というものは、事実、きわめて一定した条件のもとでは、人間の力では、成しえない方法で、自然自身によって成された、甚だしく微妙な実験である。」

実験は一定した条件の元で行なわれねばならぬが、病気という条件は、甚だ複雑であって、右のリボーの言葉に反対する人があるかも知れない。しかし、この方法は実験的方法や統計的方法と同様に、またそれ以上に、心理学にとって重要である。

多くの社会心理学者のうち独創的見解を述べている者は、異常心理に関心を示し病理法を用いた。ジャネ・デュマ、ブロンデルなどは、異常心理学者であると同時に社会心理学者であり、マクドーガルなどもこの方法を用いた社会心理学者である。精神分析は病理的方法か用いた心理学であって、異常心理を媒介にして、その説をきずいている。